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Oct
11
2013

南魚沼「龍言」で観戦した王座戦の将棋が凄すぎた

先日の10月8日は、南魚沼市の温泉旅館「龍言」で行われた第61期王座戦第4局の現地大盤解説会に行ってきました。
王座戦は、将棋の7大公式タイトル戦(竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖)のひとつで、例年9月から10月にかけて王座と挑戦者が5番勝負(3勝先取)を行います。
第61期王座戦の対局者は、羽生善治王座と中村太地六段。
ここまでは中村挑戦者が2勝を先取し、タイトル奪取に王手をかけています。
昨年の王座戦第4局を始め、近年の王座戦は名局が生まれることが多い人気棋戦ですが、今年の王座戦第4局も壮絶な一局となりました。

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六日町温泉「龍言」

対局地の新潟県南魚沼市は、NHK大河ドラマ「天地人」の主人公・直江兼続ゆかりの地。
関越道・六日町ICを下り、坂戸山に向かうと、坂戸山麓の坂戸城址に上杉景勝と直江兼続の生誕碑が建っています。

坂戸城址

「龍言」は、その坂戸城址からすぐ近くにある高級温泉宿。
豪農の館や武家屋敷を移築した建物を、それぞれ回廊で結んだ旅館で、立派な長屋門から敷地内に入ると、旅籠の時代にタイムスリップしたかのようです。

敷地に入ると旅籠の世界

幽鳥の間(ロビー)

龍言は、これまでにも何局かのタイトル戦が行われていて、直近では昨年2012年の第25期竜王戦第5局の対局地でした。
対局室へと通じる回廊前のロビーには、これまで龍言で対局した棋士の揮毫が飾ってあります。

佐藤康光九段が達筆すぎる

対局室は「円通の間」。
対局室のある「御居間屋敷」は、もちろん関係者以外立ち入り禁止です。

将棋界の第一人者VS若手肉食系棋士

ここで将棋にあまり馴染みのない方のために、両対局者を簡単に紹介しておきます。

王座を保持する羽生善治三冠(王位・王座・棋聖)は、言わずと知れた将棋界の第一人者。
史上3人目の中学生棋士としてデビューし、1996年に史上初の「七冠」を達成したのは、多くの方がご存じでしょう。
デビューから積み重ねたタイトルは通算85期(史上最多)。
王座戦は1992年から2010年まで19連覇を果たした最も得意とするタイトル戦です。

一方の挑戦者・中村太地六段は、25歳の若手棋士。
クールな外見とは裏腹に、攻撃的な将棋を得意とする「肉食系棋士」です(本田女流談)。
タイトル初挑戦となった昨年の第83期棋聖戦では羽生棋聖に0-3で跳ね返されていますが、今期の王座戦では第1局と第3局を勝ち、初タイトル奪取に王手をかけています。

ニコニコ動画のかっこいい王座戦PVも貼っておきますので、ぜひご覧ください。

現地大盤解説会

さて、大盤解説会に参加するのは、2008年に山形県天童市で行われた第66期名人戦第6局から5年ぶり。
その時は、羽生善治挑戦者が森内俊之名人に勝ち、名人位を奪取するとともに、19世名人の資格も獲得した一局でした。
【関連記事】 将棋名人戦天童対局観戦記 - ゆめのりょけん

畳に座りながらの観戦

今回の現地大盤解説会は、144畳の大広間「無事庵」で畳に座りながらの観戦です。
参加者は14:00の大盤解説開始時点では30人ほどだったものの、次第に人数が増えていき、夕食休憩後には100人近くいたんじゃないでしょうか。
平日昼間の大盤解説会ということで、参加者の年齢層はかなり高めですが、30歳前後の参加者もけっこういて、将棋界きってのビジュアル対決ということで、女性ファンの姿もちらほら見かけました。

コーヒーは飲み放題

入場料は2,000円で、会場に準備されたコーヒーやお茶を自由に飲むことができます。
ポットのコーヒーはおそらくドリップの本格派で、大盤解説中に10杯くらい飲んだので、十分に元は取れたんじゃないかと。
ただ、この日は台風24号のフェーン現象で、10月にして気温30度を超えるような一日だったので、冷たいドリンクもあればもっとよかった。
とはいえ、この日の将棋の内容なら、飲み物なしで2,000円でも大満足の一戦でしたが。

解説と聞き手は、深浦康市九段と本田小百合女流三段

解説と聞き手は、深浦康市九段と本田小百合女流三段。
深浦九段はタイトル経験も豊富なA級棋士ですから読みは早くて正確、聞き手の本田女流三段も仕切り上手で、スムーズに大盤解説会は進行します。
大盤解説会というのはわりとオープンで、解説中にトイレに立ったり、ロビーにタバコを吸いに行ったりしても大丈夫。
スマートフォンやタブレットでニコ生中継や2ちゃんねる将棋板を見ながら解説を聞いているファンもたくさんいました。

ただ、一つ不満を言えば、大盤解説会場に対局者を映すサイドカメラのモニターがなかったこと。
結局、この日一度も羽生王座・中村六段の顔を見ることなく終わりました。
現地に行っても対局者と直接会えるわけではなく、それは別にいいんですが、カメラ越しにも対局者を見ることなく終わるというのはいかがなものかと。
これなら家でニコ生中継を見ていた方がよくない?
この点に関しては、善処を期待します。

大盤解説会が始まった直後に事件が起きる

そんな感じで始まった大盤解説会ですが、開始30分で事件が起こります。
この日の戦型は「横歩取り」。
一般に激しい急戦になりやすく、乱戦を得意とする両者ともに好んで指す戦法です。
しかも、この日は後手の中村六段が38手目に△5四角を打つ最新の形で命運を懸けてきました。

第39手▲4六角まで

ここで先手の羽生王座が選択したのは、▲4六角△4四飛▲5五角△2四飛▲4六角からの千日手。
千日手は先後入れ替えての指し直しとなるため、一般に先手にとっては不利になり、後手にとっては受けない理由がありません。
そんなわけで、あっさりと千日手は成立し、30分の休憩後、指し直しとなりました。
解説の深浦九段も、「これは千日手もある局面ですね」と冗談交じりに話していたら、本当に先手の羽生王座から千日手を要求したのでびっくり。
「これだから羽生さんはわからないな...」と、苦笑まじりの一時休憩となりました。

千日手指し直し局

「羽生の強さは乱戦での力勝負の強さにある」とよく言われます。
特に、持ち時間の少ない早指し将棋は滅法強い。
タイトル戦の千日手指し直し局は、基本的にそのままの持ち時間で続けるため、持ち時間それぞれ5時間の対局が、持ち時間それぞれ2時間半の対局になるようなもの。
後手になるデメリットより早指し勝負を有利と見たのか。
あるいは、先後を入れ替えることで中村六段の想定研究を根底から覆し、力勝負に持ち込むつもりか。

指し直し局の戦型は、どうやら「後手番一手損角換わり」。
先手となった中村六段は、1筋の歩を突いて攻撃の構えを見せるものの、羽生王座はじっくりと駒組みを続けて、開戦を急がないようです。
中村六段の挑戦者らしい思い切りの良い攻めがここまで功を奏しているので、さすがの羽生王座も警戒しているのでしょうか?

立会人の中村修九段と新潟出身の近藤正和六段

ここで大盤解説は深浦・本田コンビから、立会人の中村修九段と新潟県柏崎市出身の近藤正和六段にタッチ。
立会人ならではの対局者のエピソードや、今回の戦型である「角換わり戦法」の変遷を、中村修九段の「ぼやき節」で解説してくれました。

第41手▲1四歩まで

その間に、中村六段は▲1四歩から端攻めを敢行。
△1四同歩▲1三歩△同香▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2六飛と進み、次の羽生王座の一手が大注目ですが、ここで1時間の夕食休憩です。

夕食休憩直後に羽生マジックが炸裂

夕食休憩の後、羽生王座は△5五銀直と着手。
この50手目は夕食休憩前に行われた「次の一手クイズ」の問題でもありました。
自分は第1候補手の「△8五桂」を選んでいたので不正解。
この△5五銀直は、一見△8五桂を入れてからの方が良さそうですが、詳しく精査してみると、一概にそうとも言えないようです。

第50手△5五銀直まで

いずれにせよ、この△5五銀は開戦の合図。
▲同銀△同角と銀交換から、続く中村六段の▲5六歩が「角を切って攻め合いをしましょう」と迫る覚悟の一手。
ここで△6四角と逃げてから△4六銀と攻める筋は、厳しい継続手が見つからないので、「△7七角成で角を切れないようじゃ面白くない」と中村修九段。
その解説を待っていたかのように、羽生王座は△7七角成と角を切り、中村六段はノータイムで▲同桂。

第55手▲7七同桂まで

ここで羽生王座の次の一手は、当然△6六歩で飛車先から攻めると思われていましたが、着手したのは意外にも△4六歩。
さらに意外だったのは、▲4八金と引いた後の△4七銀。
中村修九段に至っては、「△4七銀と打つようでは筋が悪い」と言った直後だったので、「ひゃあああ」と頭を抱えていました。笑。
ただ、深浦九段もこれには同意見のようで、「これで先手がかなり良くなった気がします」とのこと。

第58手△4七銀まで

ところが。
この△4七銀に対して、中村六段の着手は▲4九金。
これには解説陣みんながびっくり。
続く一手は当然の△5六銀成で、深浦九段は「この成銀が入るなら後手がいいかもしれない」と評価を保留。
マジック? マジックなの?

詰むや詰むざるや!? タイトロープで斬り合う終盤戦

続く中村六段の▲1二銀はずっと検討されていた一手。
ただし、後手の玉は薄いが遠いので、△6六歩としておけば▲2三銀成とされても攻め合いでまだなんとか残せそう...と言っていた矢先の△6七成銀。
先手は当然▲同金。
ここで先手に銀を渡してしまうと、▲2三銀成からの攻めが詰めろになり、一方の先手玉はまだ詰めろになりません。
なぜ素直に△6六歩ではなかったのか?
羽生王座には何が見えているのか?

第65手▲2三銀成まで

ここからは中村六段が一方的に攻める展開。
▲2三銀成が詰めろなので、羽生王座が相手の攻めをかわすか受けるかしなければ詰まされてしまいます。
ところが、この後手玉がなかなか捕まらない。
大盤解説では深浦九段がフル稼働で寄り筋を探すのですが、必至がかかりそうでかからない、詰んでいそうで詰んでいない。
大盤で実際に駒を動かしながら、幾通りもの分岐を精査していると、どこかに必ず抜け道がある。
そして、その最善手で的確に受け続ける羽生王座。

詰むのか詰まないのか固唾をのんで見守る

これはあれです、「ヒカルの碁」でヒカルが和谷と対局した時に佐為が言ったセリフ。
「黒の生きる道はある。気づきにくい難しい道が、しかしたった一本、ある」
お互いどこかに読み抜けがあれば、おそらく勝負が決する綱渡りの読み合い。
もう観戦している方は置いてけぼり、固唾をのんで見守るしかありません。
本当にこの息の詰まるような終盤を、詳細に綴る棋力も文章力もないのが悔やまれます。

一歩千金

棋士が好んで書く揮毫に、「一歩千金」という言葉があります。
「歩でも局面によっては金以上の必要性を示すこともある」という意味ですが、この熱戦の勝敗を左右したのは、まさに歩でした。
例えば、79手目▲6三歩の局面では、持ち駒に歩がもう一枚あれば簡単な詰みなのに、足りない。
例えば、115手目▲4三銀の局面では、▲5五歩としていれば詰みもあったはずなのに、1分将棋で読み切れず。
そして、121手目▲6六歩の局面では、本来なら▲6六金と打ちたかったところが、それでは次が打ち歩詰めの反則になるので仕方なく。
もちろん、これらは深浦九段が丁寧に解説してくれたおかげで気づいたわけですが。笑。

△8九飛を見て中村六段が投了

そして、65手目▲2三銀成によって火蓋が切られた決戦は、122手目△5六玉と出たところで後手玉が詰まないとほぼ確定し、128手目の△8九飛を見て、中村六段が投了しました。
こうして、千日手を挟んだ王座戦第4局は、23:28に終局。
羽生王座が中村六段の猛攻を受けきり、5番勝負を2-2のタイに戻しました。

タイトルへの道はかくも厳しい

羽生王座は著書「決断力」の冒頭で、初めて名人位を奪取した時の苦しい心境を吐露しています。
第52期名人戦で当時の米長邦雄名人に挑戦し、3-0から連敗して3-2となった第6局。
勝ち星ではリードしているはずが、連敗に焦り、追い詰められ、手が動かなくなり、そうした臆する心を乗り越えてつかんだ名人のタイトル。
タイトル戦は盤面での戦いだけではなく、メンタル面の戦いでもあります。

戦いの舞台は甲府へ

今、中村六段は、初タイトルの扉の重さを痛感しているところでしょう。
最新形で命運を懸けたところを千日手で仕切り直し、指し直し局は堂々と攻め合い、深浦九段に「この手(91手目▲3四馬)が指せるなら挑戦者が勝ちそうな気がします」とまで言わしめながら、捕まりそうで捕まらなかった羽生王座の後手玉。
10月21日に甲府市の常磐ホテルで行われる王座戦第5局で新王座誕生となるのか、あるいは初タイトルはまだ先になるのか。
結果は、神のみぞ知るところですが、中村太地六段が初タイトルを手にした時、思い出すのはこの一局であるように思います。

後日追記;この日の千日手指し直し局は、第41回将棋大賞・第8回名局賞に選ばれました。

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